練馬区が「未納対策支援 AI」を運用|財産調査先の選定を 1 件あたり平均約 30 分から約 3 分へ(区発表)、ベテランのノウハウを AI に移す自治体の事例【AI活用事例】

公開: 2026-11-06

練馬区(富士通Japan と共同開発)公共・自治体税・保険料の未納対策業務(財産調査先の選定支援/案件と職員のマッチング)業種別未納対策支援 AI(練馬区と富士通Japan の共同開発)財産調査先候補の最適化システム案件の難易度と職員の習熟度のマッチングシステム

この事例でわかること

  • 練馬区が富士通Japan と共同開発した「未納対策支援 AI」を、2024 年 4 月 1 日に運用開始(区プレスリリース 2024-03-27、区は全国初としている)。対象は住民税と国民健康保険料の未納対策業務
  • AI は 2 つのシステムで構成: 収納情報とベテラン職員のノウハウを学習して財産調査先の候補を示す「財産調査先候補の最適化システム」と、案件の難易度と職員の習熟度を推定して担当を割り振る「マッチングシステム」
  • 区の発表では、財産調査先の選定時間が 1 件あたり平均約 30 分から約 3 分へ(90% 削減、年 2,475 時間を創出)。ただし対象は選定という一工程で、徴収額や収納率の改善率ではない
  • 数値の測定方法・件数の前提・運用後の実測かどうかは公表されていない。引用時は「財産調査先の選定時間について区が示した値」と限定して書く
  • 自社に置き換える型は 3 つ: ベテランの判断を「入力と出力」の形で書き出す/AI の出力を候補提示にとどめ、決定は人に残す/削減した時間の使い道を先に決める(演習は Links-Create の研修用提案)

主な指標(一次ソース確認済み)

財産調査先の選定時間(1 件あたり平均)
約 30 分 → 約 3 分(区発表)

練馬区プレスリリース(2024-03-27)の「期待される効果」と、区民部収納課の委員会報告資料(2024-08-09)に記載。対象は「財産調査先の選定」という未納対策業務の一工程であり、未納対策業務全体・徴収額・収納率の改善率ではない。プレスリリース時点では運用開始前の「期待される効果」として示されており、運用開始後の実測値かどうか、測定方法・対象件数は公表されていない。

選定時間の削減率と創出時間
90% 削減/年 2,475 時間を創出(区発表)

プレスリリース(2024-03-27)の図中の記載。90% は上記の約 30 分→約 3 分に対応する。「年 2,475 時間」の算定に使った年間の件数や前提は公表されていない(Links-Create が 1 件あたり 27 分の削減で割り戻すと 5,500 件分に相当する計算になるが、これは区の公表値ではない)。創出した時間は他の未納者対応に充てるとされ、人員削減の数値ではない。

運用開始日
2024 年 4 月 1 日

プレスリリース(2024-03-27)と委員会報告資料(2024-08-09)に記載。区は「全国初」の取り組みとしている(区の表現)。対象は住民税と国民健康保険料の未納対策業務。

開発までの期間
2 年に及ぶ検討や実証実験

プレスリリースの記載。区が富士通Japan に業務の一部のシステム化を提案し、共同開発した。開発費・契約形態・利用している AI の手法(モデルの種類)は公表されていない。

一次ソース: https://www.city.nerima.tokyo.jp/kusei/koho/hodo/r6/r603/20240327.html (公開: 2024-03-27)

要約

東京都練馬区が、富士通Japan 株式会社と共同開発した「未納対策支援 AI」を、2024 年 4 月 1 日に運用開始しました(区プレスリリース 2024-03-27、区は全国初の取り組みとしています)。住民税と国民健康保険料の未納対策業務のうち、財産調査先の選定と案件の割り振りを AI が支援します。

この事例から学べるのは、自治体の税務に AI が入ったこと自体より、ベテラン職員の判断を AI に移し、人が使える形で業務に組み込む設計です。公式資料から読み取れるポイントは次の 3 つです。

  • ベテランのノウハウを学習させる: 収納情報とベテラン職員のノウハウを AI が学習し、財産調査先の候補を示す
  • 人の育成にも使う: 案件の難易度と職員の習熟度を推定し、習熟度に応じて担当を割り振る
  • 成果は一工程の発表値: 財産調査先の選定時間が 1 件あたり平均約 30 分から約 3 分へ(区の発表、測定条件は非公表)

本記事は 練馬区の公式プレスリリース(2024-03-27)と、区民部収納課の 委員会報告資料(2024-08-09)を一次ソースに、事実の整理と Links-Create の分析・研修用の演習を分けて解説します。演習の例は研修用の提案であり、練馬区が実施した事実ではありません。

何が発表されたか(公式情報ベース)

発表主体は練馬区自身であり、効果の数値も区による発表値です。この点を前提に読んでください。

未納対策支援 AI の概要

項目内容
運用開始2024 年 4 月 1 日(プレスリリース 2024-03-27、委員会報告 2024-08-09 で運用開始を報告)
対象業務住民税と国民健康保険料の未納対策業務
開発区が AI の実現を提案し、富士通Japan と共同開発。2 年に及ぶ検討や実証実験を経た
構成「財産調査先候補の最適化システム」と「案件の難易度と職員の習熟度のマッチングシステム」の 2 つ
位置づけ委員会報告では、未納対策における内部事務の効率化を目指したデジタル化の取り組みの一つ、「練馬区モデル」と説明

背景: ベテラン職員の確保という課題

未納対策では、未納者の資産や生活状況を把握するために預貯金等の調査が欠かせません。プレスリリースによれば、的確な調査には多岐にわたる収納情報の整理など、経験豊富な職員が持つノウハウが必要で、区ではかねてから業務に精通したベテラン職員の確保が課題となっていました。

「そこで、区はAIの学習機能に着眼し、同社に業務の一部をシステム化できないか提案を行いました。」 — 出典: 練馬区プレスリリース(2024-03-27)

2 つのシステムの役割(公式資料の要約)

システム何をするか区が示す効果
財産調査先候補の最適化システム各未納者の収納情報(住所・所得など)とベテラン職員のノウハウを AI が学習し、最適な財産調査先を提示する選定時間が 1 件あたり平均約 30 分から約 3 分へ。経験の浅い職員でもベテランと同等の成果を得られるようになる
案件の難易度と職員の習熟度のマッチングシステム過去の財産調査の作業記録(調査に要した時間など)を AI が分析し、案件の難易度と職員の習熟度を推定。習熟度の向上に合わせて徐々に難易度の高い案件を振り分ける習熟度に応じた指導・助言、適正な人材育成、業務全体の効率化

プレスリリースの図では、選定時間について「90%削減」「年 2,475 時間を創出」とも示されています。削減した時間は他の未納者対応に充て、より多くの案件を丁寧に対応するとされています。

生活再建の支援への活用

区は、未納者には低所得者が多い傾向を踏まえ、生活実態をきめ細かく把握できるシステムの特徴を生かして、未納の要因を早く捉え、福祉部門と連携した生活再建の支援も強化するとしています。委員会報告では、財産がある人には「徴収強化」を、生活困窮がうかがえる人には福祉事務所や生活サポートセンターと連携した早い段階の支援を、という方針が示されています。

公式資料で開示されていない情報(推論で書かない)

確認した範囲で、次の情報は記載がありません。

  • 「約 30 分→約 3 分」の測定方法・測定期間・対象件数、運用開始後の実測かどうか
  • 「年 2,475 時間」の算定に使った年間件数などの前提
  • 使っている AI の手法(モデルの種類)と、学習に使ったデータの件数・期間
  • 開発費・運用費・契約形態
  • 徴収額・収納率・差押え件数など、業務の成果への影響
  • AI の提示を職員がどう確認し、最終判断をどう行うかの手順
  • 個人情報の取り扱いに関する具体的な運用

これらは公式情報がないため、本記事でも記載しません。なお、第三者の報道では別の税務 AI にも触れられていますが、区の一次資料で確認できないため本記事では扱いません。

設計の読み解き(Links-Create による解説)

ここからは、公開情報から読み取れる設計上のポイントを Links-Create の視点で解説します。以下は独自分析であり、練馬区や富士通Japan の公式見解ではありません。

1. AI に任せたのは「決定」ではなく「候補の絞り込み」

財産調査先候補の最適化システムが行うのは、調査先の候補を提示することです。調査の実施や、その後の判断を AI が行うとは書かれていません。

  • 時間がかかっていたのは「多岐にわたる収納情報を整理して、どこを調べるかを決める」作業
  • AI はこの整理と絞り込みを担い、職員は提示を使って調査を進める(Links-Create の解釈)

住民に不利益が及びうる業務では、AI の出力を候補提示にとどめ、決定を人に残す設計は説明がしやすく、導入の合意も取りやすくなります。

2. 「ベテランと同等の成果」は、暗黙知を入力と出力に分けた結果と読める

区は、AI がベテラン職員のノウハウを学習すると説明しています。具体的な学習方法は公表されていませんが、AI に学習させるには、少なくとも次の 2 つが記録として残っている必要があります(一般論としての整理)。

要素本事例での対応(公式資料の記載)
判断に使う情報(入力)収納情報(住所・所得など)。プレスリリースの図では居住地・家族構成・所得・相談記録・滞納額なども例示
判断の結果(出力)どこを財産調査先にするか

「ベテランのやり方を AI にする」と聞くと大掛かりに感じますが、実際の第一歩は判断を入力と出力の表に書き出せるかです。2 年に及ぶ検討や実証実験という期間からも、この整理に時間をかけたことがうかがえます(期間の内訳は非公表)。

3. 2 つ目のシステムは「人を育てる」ための AI

マッチングシステムは、業務を速くするだけでなく、習熟度に合わせて案件の難易度を上げていくためのものです。

  • 財産調査に要した時間などの作業記録から、案件の難易度と職員の習熟度を推定
  • 習熟度の向上に合わせて、徐々に難しい案件を振り分ける

1 つ目のシステムが「ベテランの判断を全員に配る」役割だとすると、2 つ目は「次のベテランを育てる」役割です。AI に頼るほど人が育たないという懸念への、1 つの答え方として参考になります(Links-Create の整理)。

4. 削減した時間の使い道を、最初から決めている

プレスリリースは、削減できた時間を他の未納者対応に充て、より多くの案件を丁寧に対応するとしています。委員会報告では、生活困窮がうかがえる人を早く福祉につなげる方針も示されています。

AI 導入の効果を「何時間減ったか」だけで語ると、人員削減の話と受け取られがちです。減った時間を何に使うかを先に示すことは、現場の協力を得るうえでも、住民への説明のうえでも有効です。

5. 数値を引用するときの 4 つの注意

  • 対象は財産調査先の選定という一工程: 未納対策業務全体や徴収額・収納率の改善率ではない
  • 発表時点は運用開始前: プレスリリース(2024-03-27)では「期待される効果」として示されている
  • 測定条件は非公表: 測定方法・対象件数・年 2,475 時間の算定前提は公表されていない
  • 発表主体は区自身: 第三者による検証結果ではない

推奨する表現は「財産調査先の選定時間を、1 件あたり平均約 30 分から約 3 分に短縮できると練馬区が発表(測定条件は非公表)。」です。

6. 既存の事例との違い

事例AI の役割本事例との違い
NTTドコモの基地局 AI カメラによるクマ検知画像認識で出没を検知し、自治体の安全対策を支援住民向けの安全対策。本事例は自治体内部の事務処理を支援
JR 東日本「みどりの窓口」AI 対応AI が要望を整理し、発券は係員が担当(実証実験)窓口業務で実行を人に残す設計。本事例も候補提示にとどめる点が共通

自社に置き換える演習(Links-Create の研修用の提案)

以下の演習と表の例は、Links-Create が研修用に提案するものです。練馬区が実施した手順や事実ではありません。 表の「例」は考え方を示す架空の例なので、自社の業務に置き換えて記入してください。

演習 1: ベテランの判断を「入力と出力」の表に書き出す

業務の例(研修用の例)判断に使っている情報(入力)判断の結果(出力)
与信の一次審査取引履歴、業種、支払遅延の記録追加確認が必要かどうか
問い合わせの振り分け問い合わせ文、顧客区分、過去の対応記録どの担当に回すか
設備点検の優先順位づけ稼働時間、過去の故障記録、設置環境どこから点検するか

書き出せない列があれば、AI に学習させる前に、まず記録の残し方を変えるところから始めます。

演習 2: AI の出力を「候補提示」「推奨」「決定」のどこに置くか決める

置き方向いている業務の考え方例(研修用の例)
候補提示結果が人や取引先に不利益を及ぼしうる調査先・確認先の候補を並べる
推奨取り消しやすく、人が最終確認する担当の割り振り案を出す
決定定型的で、誤っても影響が小さい社内文書の分類

迷ったら「候補提示」から始め、運用の記録を見ながら段階的に広げます。

演習 3: 削減した時間の使い道と、測り方を先に決める

決めておくこと例(研修用の例)
何を測るか1 件あたりの選定時間、件数、やり直しの件数
いつ・誰が測るか導入前後の 1 か月ずつ、担当者の作業記録で
減った時間を何に使うか難しい案件への対応、若手への指導

練馬区が非公表とした「測定条件」を、自社では最初に決めておくことが狙いです。

法人 AI 研修への示唆(Links-Create の視点)

  1. ベテランの判断を表にする演習から始める — AI の話の前に、入力と出力を書き出す。記録が足りない業務が見えてくる
  2. AI の出力の置き場所を決める — 候補提示・推奨・決定のどこに置くかを、業務ごとに決裁者と現場で合意する
  3. 時間の削減は使い道とセットで示す — 「減った時間で何をするか」を先に決めると、現場の協力が得やすい

関連リソース

出典・引用ポリシー

本記事の事実情報は、次の公式資料のみを一次ソースとしています。

設計の読み解き・演習・研修への示唆は Links-Create の独自分析・研修用の提案であり、練馬区および富士通Japan の公式見解ではなく、区が実施した事実でもありません。

定量値は区の発表値(財産調査先の選定という一工程・運用開始前の期待される効果として公表・測定条件は非公表)である旨を維持し、徴収全体の成果としては記述していません。引用する際は前提条件を必ず併記してください。

公式情報の更新があれば、本記事も追従して更新します。

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